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星乃トラコは眠りたい。

小説を書いて一発当てて犬を飼って寝て暮らす。それがわたしの最終目標。

CLEAN BANDITとtobyMac

この間、ちょいとムシャクシャしたことがありまして。あんまりムシャクシャしたのでつい勢いで、Apple Musicのトライアル登録をしてしまいました。

そしたらまあ何ということでしょう。

世界で流行ってる音楽聴き放題の落とし放題じゃありませんか。なにこれすごい。

プレイリストのトゥデイズヒッツ洋楽を漁り切るのに3日かかったぞ。

というわけでムシャクシャもカッ飛んでホクホクしておりまして、以前siaとLadyGaGaについてのあれこれを書き散らしましたが、本日もそういう感じで参ります。

今回はCLEAN BANDITとtobyMacです。と言ってもsia&LadyGaGaほどアルバム通して聴き込んでるわけではないので超絶上っ面、たまたま歌詞がトラコに引っかかったというだけで取り上げます。




まずはCLEAN BANDITから。

Rockabye (feat. Sean Paul & Anne-Marie)

Rockabye (feat. Sean Paul & Anne-Marie)

  • Clean Bandit
  • ダンス
  • ¥250


マジで2、3日前に知ったばかりなのでバンドの背景とか何にもわかりません。

イングランドのミュージシャングループだってことと、今回組んだSean Paulはジャマイカ出身、Anne-Marieはお名前がモロにフランス系と随分多国籍な編成になってんなというくらいのことしか知りません。

貼ったのはその彼らがチャートにのし上がったきっかけとなった曲『Rockabye』です。子守唄のことだそうです。

トラコは何も前情報無い状態でフンフンとテキトーに聞いてたらば「…なんかこの歌、歌詞が日本昔話系の怪談的なアレじゃね?昔々ある海辺に女が暮らしてて、なんかの拍子で男拾って、その男が逃げられなくなる話とかっぽくね?」ととんでもない方向に空耳したために強く印象に残ってこうしてあれこれ調べるに至ったのですが、怪談どころかこれはシングルマザーへの応援歌だそうでした。だそうでしたっていうか曲冒頭で宣言してましたラップが。

で、話題の曲なのでいろんなブログとかが歌詞を訳してるんですが、これがまたすごい状況というか、work by the waterのフレーズひとつ取っても「水仕事」から「海辺で働くこと」まで、Somebody's got youが「誰かが支えてくれる」から「さらわれる」までバラついていたり、あっちのブログで肯定的なフレーズに書かれてることがこっちでは真逆になってたりととにかく情報が錯綜しており大変いい感じです。トラコは裏読みとか大好きなタイプなので解釈が何通りも乱立しているというだけでかなり心惹かれます。

それはともかく、トラコ的には超ざっくりと以下のような訳になります。興味がある方はぜひ検索して歌詞全文を見てください:

彼女は海のそばで毎晩働いてる、ストレスに苛まれていてかつての箱入りだったころから程遠い、今彼女は自分の子どものためだけに生きている、誰も助けてくれやしない、子どもを守るために毎日闘ってる。

まだ赤ん坊のその子に語りかける、「可愛い子、誰にもお前を傷つけさせやしない、愛情の全てを注ごう、お前より大事なものなんかない」

彼女は子に語りかける、「可愛い子、お前の人生はあたしみたいにさせやしない、大きくなってしあわせに暮らすのよ、あたしはそのためにすべきことは何でもやる」。

「だから、ベイビー、いい子でいてね

いい子でねんねしてちょうだい

泣かないで

連れて行かれちゃう

ベイビー、いい子でいてね

泣かないで

いい子で寝てちょうだい」。

困難に立ち向かい、来る日も来る日も問題を始末して過ごさなきゃならない

誰にも負けないような愛情を注ぎ、授業料をバス代を捻り出し

父親はどこ探しても出てこない、仕事は回るし日々も過ぎていく、泣いてる暇も愚痴ってる暇もない

そして今や彼女の子は6歳になった、あったかくさせて風邪引かせないようにして

子は彼女の目を覗き込むとき、自分が安全だということがわかっていない。

彼女は子どもに語りかける、「可愛い子、誰にもお前を傷つけさせやしない、愛情の全てを注ごう、お前より大事なものなんかない」

彼女は子に語りかける、「可愛い子、お前の人生はあたしみたいにさせやしない、大きくなってしあわせに暮らすのよ、あたしはそのためにすべきことは何でもやる」。

「だから、ベイビー、いい子でいてね

いい子でねんねしてちょうだい

泣かないで

連れて行かれちゃう

ベイビー、いい子でいてね

泣かないで

いい子で寝てちょうだい」。




この、彼女が子どもに語りかける下りで曲調がふっと南国調にハッピーな感じになるのと、そこから子をあやす子守唄になるとまた物悲しくなるののギャップがとても良いのです。

で、

よくよく歌詞を眺めまわすと、なんか意味が通るようなそうでもないような部分がある。

例えば

"When he looks in her eyes

He don't know he is safe "、こういう歌詞に出てくる「目を見る」ってのは大体心のうちとか魂の底を覗くっていうアレなのに母の目を見ていながら自分が安全だと知らないってなんじゃい。意味深。

他には先にも出したSomebody's got you、トラコは「さらわれる」解釈でやってますが、そのまんま読むとそれ人さらいやんけ。となります。日本にも泣き止まないと山姥が来てとって食われるとかそういう子守唄ありそうっていうかあった気がしますが、そういうヤツのことなのでしょうか。

っていうあたりで、これがブリティッシュバンドの曲だという事実が不意に浮かんできてトラコの脳内限定で歌の世界観が一気に鬱展開になります。

どういうことかと言いますと、これは完全にブレイディみかこ氏のブログとか著作の受け売りなのですが、エゲレスでは児童虐待防止のための行政の介入権限が大変強く、どれくらい強いかというと役人が認めたら親の同意なしで子どもを親から引き離して里親に(一時保護名目で)預けることができるようなのです。「ようなのです」ってのはトラコは根拠になる法令とかは全く見てなくて、氏のブログのある日の記事の、シングルマザーが託児所に怒鳴り込んできて曰く「こんなところにこんな大きな痣を作らせて!虐待だと思われる!子どもが取り上げられる!」とパニックになる(のを託児所の経営者が「ウチで預かってる間にケガした、虐待じゃないって役人にはちゃんと説明するから」となだめている)様子を読んで震え上がったからですがそれはともかく、そういう世界だと思って聞くと俄かに黒雲立ち込める歌に聞こえますからアラ不思議。そら「連れてかれる」から「ベイビー泣き止んで」ってなるよね。母必死になるよね。

で、そういう前提で見ると、「子は自分が安全なのを知らない」っていうのも意味が違って見えるというか、アレだ、あったかくさせよう風邪引かせないようにしようと世話を焼く親に対して子どもが反抗して手を焼かしたとする、その時子どもはへとへとでイラついた親の目の中に何を見るのか?っていう。というか、そこで子どもには見えないにしても、へとへとでイラついてても「安全」があるっていうアレが、もうね。

work by the waterが「海のそば」になったのはアレです、子に語りかける曲調が南国ハッピーなので。あとブレイディみかこ氏がお住まいのブライトンからの連想もちょっとある。

というわけで、シングルマザー応援歌と銘打たれながらシングルマザーを取り巻く環境の過酷さが浮き彫りになり「応援ってあーた、そこまで言うなら売り上げの寄付ぐらいやるんだろうね」みたいなキモチになりつつもノリは良い名曲なので延々リピートして聞いてしまうのでした。





ところで、『Rockabye』はこのようにシングルマザー応援歌で売り出してる曲ですが、それって売りになるほど珍しいことなんでしょうか。

と考えてみますと、まあ確かに絶対数は少なかろうとは思います。普通の恋愛ソングとか失恋ソングとかの方が割合では多そう。しかしもちろん過去にないわけじゃありません。

というわけで比較対象に出したtobyMac『Irene』です。


Irene

Irene


こっちは7割口ずさめるくらい聞きまくってるので歌詞は割とスラスラ出ます。だいたいこんな感じ:

いい子だ、泣かないで

子守唄をお聞き

全てうまく行くさ

神は見ててくださる…

ゆうべ君がミス卒業生に選ばれた夢を見たよ

今日で18歳だね、アイリーン、おめでとう

子どもを育てるために学校は辞めなきゃならなかった

(もう誰も周りにはいないんだろう?)

どん底に落ちた

シオンの娘よ、君の祈りは聞き届けた

心配事は託して、それから蛇には注意しておくれ

あらゆる姿あらゆる大きさで君を誘惑し、その鱗で目を惑わすだろう

無為に嘆くのはおやめ

悲しみは君に力をくれる…明日のため

君のゴルゴタはもうじきだ

頭をしっかりもたげていなさい

この嵐はすぐに去る、次の嵐に備えるんだ

なあ小さなお嬢ちゃん、世界を肩に背負う者よ

もうだめだなんて言ってはいけない

君の祈りは聞き届けた、心配事は全て託しなさい

じきにそこに着く、だから恐れないで


…この調子で全訳するとキリがないのでこの辺でやめますが、こういう感じの曲です。

一瞬で見て取れますが『rockabye』と違って強烈に宗教色が濃く、そしてそれ以上に「彼女」に具体的に寄り添い懸命に元気づけようとする姿勢が明らかです。

歌手tobyMacは有名なクリスチャンラッパーですがよくもここまでキリスト教モチーフを盛り込んだもんだなというくらいあれやこれやが出てきます。でも無宗教というか多宗教というかみたいな典型的現代人でありついでに中二病も患っているトラコにはその辺はアクセントでしかなく、強いて言えば「これ歌ってるのジーザスクライストじゃね?」っていう歌詞の立ち位置にはちょっとグッと来ますが(途中で彼も『父』に呼びかけるのです)、それより印象が強いのは、この歌は何とかして彼女に寄り添おうとしているというところ。

言い換えると『rockabye』はそこが決定的に弱い。シンママ大変だぜ応援歌だぜと言いつつ応援になってるんかいまいちビミョー。愚痴ってる暇はないはずだろう、泣いてる場合じゃないだろうと歌うのはいいんですが、それを緩和しようというアクションが何も見えてこない。

しかしそれは非宗教的なスタンスにおける誠実さの裏返しでもあって、歌で「今行く」とか「私がついている」と言ってしまえてそれが嘘にならないテーマというのは色恋とイデオロギーと宗教くらいです。シングルマザー応援歌というくらいだから歌い手は非シングルマザーな人々ということになる、するとシングルマザーがシングルマザー仲間に向けて「いろいろ大変だよね。でも、頑張ろう。みんながついてる」と発信するのと同じようなイデオロギーの共有は狙えない。色恋も宗教もナシとなると、自然と他人事止まりになってしまうので、『rockabye』はある意味帰結としては妥当です。

しかし、妥当ではあってもその帰結が限界であるとは思えない。

というか、歌とか文章とか映像とかそういう芸術の類的なブツは、それら妥当的帰結を突破してこそなのではないでしょうか。みたいな期待をトラコはしてしまうのです。

というわけでヘビーリピートしておりますが今後に期待な感じの『Rockabye』と、なんだかんだで宗教っょぃと改めて感じる『Irene』。でした。