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星乃トラコは眠りたい。

小説を書いて一発当てて犬を飼って寝て暮らす。それがわたしの最終目標。

あるふたりの兄弟のこと、並びに情報屋見習いの近況

プロメテウス、という男をご存知でしょうか。

結構有名なので、名前だけは皆さまいろんなところで聞いたことはあると思います。何かの製品名が彼にちなんでつけられたとかね。

こいつはギリシャ神話に出て来る男で、まあ神様なんですが、当時人間には禁じられていた「火」をアポロン操る太陽という戦車から盗み出し下界に与えたため、罰としてコーカサスの山に縛り付けられて毎日肝臓をタカだかワシだかにつつかれ食われている(なお1日経つと再生する無限ループ)という話が特に有名かと思われます。

さて、彼には弟がありまして。*1弟の名はエピメテウス、と言います。

これまたプロメテウス以上に有名であると思われる女、名を「パンドラ」といいますが*2、彼女を娶って妻にしたのがこのエピメテウスであります。

ところでこの兄弟、その名の由来から見ますと、兄プロメテウスは「考えてから行動する者」、弟エピメテウスは「行動してから考える者」みたいな意味になります。転じてそれぞれ「熟慮する者・先見の明のある者」「後から後悔する者」みたいな扱われ方になっています。だいたい想像つくかと思いますが、神話中では切れ者で人格高潔な兄と愚鈍な弟という位置づけです。

 

 

 

 

何が言いたいかというと、トラコは圧倒的に弟タイプなんですねこれが。

トラコは今情報屋をやっているのですが、例えば人から何かデータを出して資料にしてくれと頼まれたとします。すると特に何も考えずそれをやっちゃいます。トラコの部署の業務の範疇でもあるので本当になーんも考えず別に誰にも相談せずにまずやっちゃいます。

で、結果出したあとから「勝手にやるな」と叱られる。と。

しかも悪いことに、トラコは何がまずくて叱られるのかわからないことが多いのです。

お叱りをくださるのは言わば現場業務の先輩格、トラコ以外に情報屋として勤めている1人なのですが、しかしお叱りをくださるのはこの人だけなのです。

言うまでもなく情報屋を統括する課長とか部長とか副社長とかそういう「より上の方々」もいるのですが、彼らからはお叱りはあまり頂かないのです。彼らから来るのはせいぜい「この前のは良く出来ていたが凝りすぎ。もっと未加工なデータでもよい」というような注意で、作業そのものをやったことを叱られたことはないのです。

頼まれごとは情報共有するルールであり、またそのためのツールといいますか、社内掲示板?みたいな仕組みがありますので、当然トラコはそこに内容は出してみんなが確認できるようにしています。

でもその先輩は口頭報告がなかったと言って怒るのです。それも、全案件についてではなくて、トラコの不在時に先輩が伝言を受けたとか、そういう件にだけ「自分も関わったのだから報告を受ける必要がある」と怒るのであります。

しかし先輩自身はとてもお忙しそうで、しょっちゅう席を外していらっしゃいます。何より、先輩とは業務分担が結構キッチリ割れているので、報告したところで先輩が行なう作業等は何もないのであります。

自分に関わりが何にもない作業でも、口頭で報告が欲しいものなのでしょうか。トラコは日々混乱するばかりであります。よよよ。

というのは無論タテマエで、混乱の日々はとうに過ぎており、現在に至ってははっきり言ってこの先輩格の干渉が苦痛であります。

トラコ宛に正規の手続きを踏んで舞い込んで来た依頼をトラコが処理して返すことの何が問題なのか、全く以って理解不能です。不在時に伝言役をしていただくのはありがたいですが、逆にトラコも先輩の不在時に電話を受けて伝言するくらいしょっちゅうですし、そのいちいちについてどうなったかの口頭報告をしてもらっても逆に困ります。

 

 

 

 

しかし、ああしかし。

トラコはタイプで言うならエピメテウス、「行動してから考える者」であります。

トラコの人生経験から言うとエピメテウスは想像力が広くも浅く、「実際に事態に巻き込まれてみるまでわからなかった」という哀しいパターンが多々あるものです。

つまり、トラコは今こうして先輩に腹を立てていますが、先輩の側からすれば何かトラコの動きを逐一チェックしなければならないような必要性があるのかもしれません。

世界はトラコの想像も及ばず思いもつかない、「その発想はなかったわ」な一面を山ほど持っているものであります。

トラコとしてはせいぜい優秀なる兄タイプを見習って、行動する前に熟慮を重ねようと、とりあえずは冷戦状態を維持して時間を稼ぐつもりであります。

 

 

 

時々考えることがあります。

まず、愚鈍なるエピメテウス、「まずやってみる、行き詰まったら考える」トラコですが、神話と異なりトラコは少なくともそんなに評判は悪くはないのです。

先に述べた上司の評価も決して致命的に悪いわけではないです(たぶん)。まためんどくさがりで何でも簡易化・自動処理化して定期作業はほったらかしにしようとたくらむトラコの性格が完全に吉とでており、あちこちで微妙に重宝がられております。

トラコは不思議でならないのです。

まず取り掛かる性質のエピメテウスは、どうしてあんなに酷評ポジなキャラなのでしょうか?

なんと言うか、パンドラの件といい本当に軽はずみに行動してろくなことしやがらない男みたいな扱われ方なのですが、本当にそんな奴だったのでしょうか?

あまり詳しいことはわからないのですが、何だか彼が愚鈍である理由として「他の兄弟に能力を取られた」みたいなキナ臭い記述があったりもします。

また神話の世界では、土着の言い伝えに出て来る神様などが、その土地が外部の民に征服されることで、神話中でも貶められたり神格を下げられるというのはよくある話です。彼ら兄弟も元々はティターン神族、ゼウスらメジャーなギリシャ神話の神々より前からいた神様の血族であります。

つまり、ひょっとしたら、今日我々に伝わっているエピメテウスの姿は、実はかなりdisられた後のものじゃないか、本当はそこまでひどい奴ではなかったのではないか。

というか人間は普通プロメテることってそう簡単に出来ないもので(熟慮の結果が常に正しい行動に結びつくとしたらそれはもう熟慮っていうかマジの予知だし、初めて或る状況に直面するときとかに熟慮は効果を発揮しづらい)、エピメテウスを愚鈍キャラに置くのはなんか違わないか?

と時々もやもやしてしまいます。

 

そしてもうひとつ。

もしもトラコがプロメテウスであれば。

そしたら今みたいなトラブルは回避できてもっと快適に働けたのでしょうか?

しかし、賭けてもようござんすが、仮にトラコがプロメテウスであったなら、このエピメテウストラコが身につけているスキルの99%ほどは手に入れることは出来なかったでしょう。ポケモンについての記事など見ると明らかですが、プロメテウストラコはかなりの確率でああいう行動は取らず従ってああいった人生も歩まず、もはやトラコとは似ても似つかぬ別人として生きていくこととなったでありましょう。

それを思うと、これまでグチグチと綴ってまいりました先輩格がどうのこうのなどというアホらしいトラブルの回避のために、この人生丸ごと否定するのは本末転倒ってレベルじゃねえぞという話であります。

と言うわけで、Webにまたひとつデブリを放つことになりますが、うんざり案件はここに書き捨て、これからノンビリ週末を楽しむことにいたしますです。

敬具。

 

 

 

今週のお題「私のタラレバ」

*1:兄もありまして兄は兄で大地を支え続けるとかとんでもない責め苦を負っていたりしますがここでは割愛します。弟の話です。

*2:例の箱の持ち主、あのパンドラです